そもそも日本の新幹線技術では、車両が大破するような事故は“想定外”だ。新幹線にはATC(自動列車制御装置)が装備されており、「追突事故は原理的に起こり得ない」(東海旅客鉄道=JR東海)。さらに踏み切りも存在せず、クルマとの接触事故なども考慮する必要がない。事故のリスクを運行システムやインフラの整備で回避することで、車両を軽量化し、時速300kmというスピードを実現している。
事故車両も、中国側から特別な要求がなかったため、車両の強度はベースとなった「はやて」と同じだったという。しかし、中国は日本の新幹線とは異なる独自開発の運行システムが使われており、踏み切りのある在来線にも乗り入れている。日本と比較すると、事故に遭遇するリスクは格段に高い。
「運行システムも含めたすべての新幹線技術を導入してもらわないと、安全を確保できない」とJR東海が話すように、日本の新幹線が誇る「安全神話」を守るためには、トータルのシステムの輸出が大前提だ。ただし、話はそう簡単ではない。
というのも、専用線路に新幹線車両だけを走らせることで安全を保つ日本方式は、高速鉄道の導入を検討している諸外国のニーズに必ずしも合致しないからだ。例えば米国の場合、在来線の車両や貨物列車も同一の線路に走らせることを想定しており、それに対応した衝突安全性能を要求している。
これは米国に限った話ではない。中国はもちろん、欧州でも高速鉄道が在来線に乗り入れるのが一般的。独シーメンス、仏アルストム、カナダのボンバルディアなどの欧米勢の提案しているシステムもこちらのタイプだ。衝突安全性能を高めるために、車両の重量は日本の新幹線より3割ほど重いとされる。日本勢は軽量化による省エネ性能をアピールしているものの、分が悪いのが現状だ。
こうしたギャップを解消するためには、新幹線をベースとしながらも、諸外国のニーズに合う柔軟な高速鉄道システムを開発するしかない。専用線にこだわらず、衝突安全性能を高める必要がある。
ただ、ここで問題となるのが、誰がそのイニシアチブを取るかだ。
メーカー主導で開発が進んだ欧州の高速鉄道と異なり、日本の新幹線は旧国鉄が主体となり、複数の車両メーカーや信号メーカーが関わってきた。つまりJR各社の協力が欠かせない。現在、JR東海とJR東日本が別個に海外輸出の取りまとめを行っている。
ただ、JR東海が技術輸出に取り組む狙いは、「各メーカーが持つ新幹線技術を維持、発展させ、その技術発展の恩恵を得る」(JR東海)ことだ。国内の鉄道事業者が主体となっている以上、欧米基準に合わせて、新たな車両開発に取り組むインセンティブは働きづらいのが現状だ。
本気で新幹線の輸出に取り組むには、日本側が相応の体制を敷く必要がある。中国での事故は、日本側に改めてその覚悟を問うている。