子供の学力を上げるのは教師だけじゃない

学校に地域の力を~鈴木寛文部科学副大臣インタビュー

2011.03.28(Mon)  JBpress

少子高齢化により、日本の生産年齢人口は2050年までには第2次世界大戦終戦時の水準に近い5200万人まで落ち込むと予測されている。放っておけば、経済成長率が鈍化し、国力の衰退につながりかねない。

 一方で、次代の日本を担うべき子供たちの学力低下を懸念する声も多い。その背景は何なのか、そして教育現場は今どう変わりつつあるのかを、鈴木寛文部科学副大臣に聞いた。

 「ゆとり教育」だけが学力低下の原因ではない

鈴木 寛(すずき・かん)氏
兵庫県出身、1986年東京大学法学部卒業。通産省、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部助教授を経て、2001年参議院議員選挙初当選、2009年9月より文部科学副大臣。(撮影:前田せいめい)

鈴木 「ゆとり教育」で学習指導要領が薄くなり、授業時間が減った。そのせいで学力が低下したように言われます。もちろん影響がゼロとは言いませんが、すべてを「ゆとり教育」のせいにするのは間違いです。

 実際、子供たちの学力はそれがまだ続いている間に、2000年の水準に戻っています。PISA(生徒の学習到達度調査)の成績を見ると、習熟度レベル5や4の児童が増え、レベル1、2が減ったことが見て取れます。

 習熟度レベルの高い層が増えたのは、経済的に豊かな家庭が民間教育、つまり塾などへの投資を増やしたから。一方、読解力でレベル1や2が減っていますが、これは文部科学省が読書を奨励したからです。2004~2005年ごろから、朝の15分間読書を小学校の全学年で徹底した。

 戦後、国がやったこの分野の施策としては数少ない成功例だと思いますが、おかげで今では、大人は本を読まないけれど小学生は読む、という状況になっています。いきおい読解力がつき、学力が底上げされたわけです。

 民間教育の新しい取り組みも見過ごせないところです。公文のほかにも、しまじろうの「こどもちゃれんじ」(ベネッセ)、ドラえもんを使った「ドラゼミ」(小学館)など、子供の気をそらさないように工夫したサービスがこの10年くらいで充実してきました。親が危機感を持ったせいで、それらへの注目度が高まったことも大きいでしょう。

規則正しい生活習慣が学力を下支えする

 学力低下の一因は、この20年ほどを総括すると見えてきます。一言でいうと、家庭の教育力が下がったためです。

 統計を見ると、2009年の親が離婚した未成年の子供の比率は1000人あたり11人。1970年の4倍です。母子家庭・父子家庭は2005年で84万世帯で、増加傾向にあります。

 こうしたトレンドの中、長らく学力で圧勝し続けているのは秋田と福井です。両県の共通点は何かというと、3世代同居が多いこと。全体の13~15%を占めます。山形や富山などの3世代同居世帯の割合が多い県も、いい成績です。

 なぜかというと、ポイントは何より生活習慣にあります。朝、早起きしてちゃんとご飯を食べる。すると頭が活性化して授業に集中できます。そして、帰ったら一定時間、机に向かって宿題をやる。

 お母さんやおばあさんが家にいると、こういうことが規則正しくできるので、レベル3とか4になるのです。逆に夜更かしの子は総じて成績が悪くなります。

 そしてテレビの視聴時間。全然見ない子と1時間見る子とではあまり変わりませんが、1時間を超えると学力との反比例が始まります。レベル1や2の子は、だいたい平均より長時間見ている。

 1日1時間にとどめることに成功しているのは、家族が絶えず子供を見守れる家庭か、塾などに通わせられる経済力のある家庭です。

家庭の教育力低下を地域の力で補うコミュニティスクール

 つまり大切なのは、家に帰っても家族がいない、塾にも行けない子へのケアということになります。だからといって、母親に仕事を辞めて家にいろというわけにはいきません。

 そこで地域のボランティアの力を借りて家庭の教育力低下を補おうというのが、コミュニティスクール構想です。私が慶応義塾大学にいたときに、ネットワークコミュニティ論が専門の金子郁容さん(慶応義塾大学大学院教授)と一緒に始めました。

 もともとのモデルはイギリスのブレア政権が行った教育改革です。当時のブレア首相は社会学者アンソニー・ギデンズをブレーンに、「第3の道」という新しいガバナンスのあり方を提唱しました。

 これは政府、市場に加えて、コミュニティによる問題解決を探ろうということです。具体策として導入したのが、地域の人々が学校運営に関わるローカル・マネジメント・オブ・スクールズでした。

 コミュニティスクール構想はこれの日本版といえます。それで、放課後子ども教室というのを始めました。対象は、家に帰っても親がいない、塾にも行けない鍵っ子で、かつ参加を希望する子。放課後と土曜日に行われ、場所は学校ですが、運営は地域のコミュニティや学生などボランティアが担います。

当初は文科省も日教組も反対。しかし10年で9280校に拡大

 そもそもの始まりは、東京・六本木の三河台中学校の廃校を借りて行った土曜学校です。私のゼミ生や保護者、地域のボランティアの方に子供を見てもらいました。それを、議員になった私が文科省に「とにかく一回やってみろ」と働きかけました。

 当初は文科省も日教組も学校に素人が入ってくることには反対だったのですが、こちらには実績がありますからね。放課後子ども教室という形で取り組みが進んだ。おかげさまで10年で9280校に広がりました。

 放課後、子供はそこで宿題をやっても本を読んでもいいし、遊んでいてもいい。学生やボランティアの方は分からないところを教えてあげたり、一緒に遊んであげたりするわけです。それが学力の底上げに効いている。

 これまで子供の学力をめぐっては、四百数十時間という授業時間の多寡ばかりが延々と議論されてきました。しかしこれは的外れだと思います。そもそも学力世界一のフィンランドは、ゆとり教育当時の日本より授業時間が短いのですから。

 授業時間を増やしたから、教科書を分厚くしたからできるようになるという話じゃありません。それよりも放課後の午後3時から5時までの2時間、1年で約500時間も「知的なるもの」に触れる時間が増えることの方が重要なのです。

 もちろん客観的に厳密にその効果を証明することはできませんが、東京・杉並区立の和田中学校の事例はひとつのエビデンスではないかと思います。

 ここではボランティアが200人ぐらい入ってコミュニティスクールをやっています。コミュニティスクールは、放課後だけではなく、学校運営そのものに保護者や地域住民が参画するものです。結果、和田中学校は、これを始めてから学力で区内の上位に入るようになりました。

 和田中のような取り組みはもう6~7年前から始めていて、やはり東京の三鷹市ではすべての小中学校がコミュニティスクールになっています。京都市もほぼ全校で実施されていて、西の京都、東の三鷹と言われています。

学校運営に副次的メリット。やり甲斐感じる地域のシニア

 本職の先生にしてみれば自分の役割が低下しかねない面もあるわけですから、最初はものすごい抵抗があります。

 しかし、侃々諤々の議論が収まるころにはしっかりとした信頼関係ができる。スタートして何年もたったところでは、先生にも全面的に協力していただいていますし、これがないとやっていけないというところまで根付いています。

 学校側には子供の学力向上とは別のところにもメリットがあります。それは地域の大人が学校教育に参加することで、問題解決能力が高まることです。例えば、モンスターペアレントからの攻撃を和らげる緩衝材になったりします。

 足立区の五反野小学校では、コミュニティスクールの理事長が、子供の言い分だけを聞いて怒鳴り込んだりしないという誓約書を保護者から取っています。こんなことを自分たちでやったら袋叩きに遭いかねませんから、校長としては感謝感激でしょう。

 ボランティアの主力は、定年後のシニア層と子育てを卒業した主婦たちです。彼らにとっては、子供たちとしょっちゅう会って交流できること自体がモチベーションになっています。

 五反野小学校では年に1回、感謝の会というのをやっているのですが、これが泣けてくるくらい感動的なんです。ボランティアたちへの感謝の作文を読み上げ、手作りのメダルを贈り、最後に子供たち全員で感謝の歌を歌います。ちなみにボランティアの報酬はそれだけです。

 現在コミュニティスクールの数は629校ですが、これをもっと拡大していくのが私の仕事です。コミュニティスクールは市区町村の教育長が指定しさえすればできることですから、彼らが決断するか否かが肝となります。

 今、既に導入をしている教育長を集めてコミュニティスクール全国連絡協議会をつくっているのは、そこを後押しするためです。

できる子はたくさんいる。課題はボトムアップにあり

 習熟度がレベル5以上の子について言えば、日本は諸外国に勝るとも劣ることはありません。

 読解力でレベル5以上の子供は、米国が40万人で1位、2位は16万人の日本。しかし比率で見ると米国は9.9%なのに対し、日本は13.4%です。OECDの平均7.6%と比べると倍近くになります。

 数学リテラシーもさることながら、特筆すべきは科学リテラシーの高さです。やはりレベル5以上の子供もの比率が米国は9.2%(38万人)、ドイツは12.8%(10万人)、英国は11.4%(8万9000人)ですが、日本は17.0%(20万人)とダントツです。

 つまり、できる子は国際的に見ても十分います。中間層はコミュニティスクールをさらに広げることで底上げできるでしょう。あとは学習障害、あるいは日本語をしゃべれないといった問題を抱えている子供をどうするかです。

教員育成のためにも“コンクリートから人へ”予算シフトを

 そこで重要なのは、先生の数を増やすこと、併せてプロの教育者としての質を上げることです。

 日本は先生1人あたりの生徒数が世界で最も多い国です。初等教育でいえばOECD加盟国の平均は先生1人につき生徒22人なのに、日本は33人もいます。

 私立大学では教職課程の講義が6時間目や7時間目に行われるため、履修しにくいこともひとつの原因かもしれません。

 教員の質に関連しては、資格要件を修士とすることと併せて、専門免許状を作ることを検討しています。専門免許状とは、30代になったらその後の進路を4つから選ぶものです。

 第1の選択肢は最終的に校長になるスクールマネジャー、次いで特定教科のスペシャリストである教科指導、3つ目は生徒指導・進路指導、4つめは学習障害に対応する特別支援教育のエキスパートです。

 教育実習時間があまりにも少ないことも問題でしょう。日本の教育実習時間は小中学校で4週間、高等学校で2週間ですが、フィンランドは25週間*1です。

 特にレベル1未満の子への対応には、人件費や研修費などの予算が必要となります。今年はようやく国土交通省予算を文科省予算が上回りましたが、それでもGDP比率で見ると決して十分とは言えません。

 米国の教育予算はGDP比5%、フィンランドは6%ですが、日本は3%ですから。文字通り“コンクリートから人へ”という予算配分の見直しを、今後も進めていく必要があると思います。

*1: タンペレ大学の場合(大学により異なる)

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